朝の出勤前に、午後のちょっとしたひと時に、仕事や勉強の休憩時間に。短編の魅力をあますところなく堪能できる、珠玉の5冊をご紹介します。
恋愛あり、家族愛あり、ちょっとの陰鬱と寂しさと、そして希望あり…。ジュンパ・ラヒリはアメリカの作家で、この短編集はヘミングウェイ『老人と海』マイケル・カニンガム『めぐりあう時間たち』等で知られるピューリッツァー・フィクション賞を受賞したデビュー作です。いずれの短編も、恋人、家族、社会、各々の関係性に研ぎ澄まされた展開の光る、ひそやかで濃密な作品集です。“人生は悲哀なもの”という前提の中で、パレットのように彩られる人間模様とエピソード。ページを繰るたびぐいぐいと引き込まれ、あっという間に読み終えてしまうでしょう。一つのストーリーが過ぎ去った時、すこし心がヒリヒリと昂り希望の残る、そんな1冊です。
瀬尾まいこの著作をamazonで検索すれば、どの作品にも共通して見つかるレビューがあります。それは「著者の優しさ」。たぶん、この本の作者瀬尾まいこは優しい人だろう…そう思わざるを得ないような、見事な読後の幸福感のある作品です。この短編『強運の持ち主』は、OLを辞めて占い師に転身した主人公の出会う人々との出来事を描いたもので、短編といっても共通する設定があります。いつも温かな視線に見守られているような、そしてちょっとライトで穏やかで、でも確実に温かな言葉で読む者の心を明るくしてくれる、少し不思議で安定した幸福の短編。愛おしくて抱きしめたくなる1冊です。
間違いない名作をご紹介します。教科書や国語の試験等で、ここに収録された話のうちどれか一つは読んだことがあるという人も多いのではないでしょうか。向田邦子という作家の、才能が溢れて恐ろしいほどという様を十分に堪能することが出来る『思い出トランプ』。今回ご紹介する5つの短編集のうち、一編あたりの文量は最も少ないながらも、濃密さといえばどれにも引けを取りません。人間に対する卓越した観察眼、心情描写、突飛ではないエピソードの中にきらりと光る瑞々しい感性。読んでいて、「あ、これは自分の話だ」そう感じてしまう場面がいくつもあることでしょう。「世にも奇妙な物語」のような、不思議でどことなく懐かしい感覚を生む、そして何度でも読み返したくなる1冊です。
『イン・ザ・プール』は奥田英朗の著作の中でも大変人気の高い作品です。当作品、実は箱庭文学の金字塔でもあり、伊坂幸太郎『死神の精度』がお好きな人はまずはこちらを読むのが良いでしょう。瀬尾まいこ『強運の持ち主』が占い師を物語の共通の視点に据えるなら、こちらはちょっとサイコな医者が毎度登場し、奇妙に厚顔で不躾、楽観的な処方で患者を困惑させます。そしてこちらが『強運の持ち主』と異なるのは、毎回のエピソードでの主役は確実に“患者”その人であり、奇妙な医者は全編を通して奇妙な医者として謎であり続けるという点です。読んでいて、不思議と爽快感あるラストへと自然に誘われる読後感が最高の1冊です。悩める現代人への、ちょっと荒々しい処方箋とも言えるでしょう。
文壇での特殊な位置付けや近年の話題もあり、『檸檬』という題名と梶井基次郎という作家を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。表題作「檸檬」に限らず、瑞々しい筆致にのめり込んでしまう短編集です。自身の病弱さもあってか、奇妙に真実味のある「のんきな患者」、猫との一見アンチモラルな感情の機微を短く描き切った「愛撫」など、いずれも他に類を見ない、不思議な詩的リズムに溢れた描写が美しい。優しく、エピソードで魅惑するような短編に少し飽きてきたときにおすすめです。詩的で美しい文章に、リズムで酔い痴れてみてください。
如何だったでしょうか。ちょっとした時間を彩る、素敵な短編との出会いを是非ご堪能ください。
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