ショート・ショートの分野に限らず、その名を知らない人がいないほどのSFの名匠、星新一。ただ、今から読もうとする人にとっては、あまりにも著作が多いので、何から読もうかと迷ってしまいますよね。今回はそんな名匠を知るのに最適な10冊を厳選してご紹介します。
まずはオールマイティなショート・ショート集から。星新一のショート・ショートをどれか1冊しか選べないとすればこれを挙げる人も多いのではないでしょうか。「おみやげ」「おーい でてこーい」などどこかで一度は眼にしたことのある珠玉の作品達。星自身が選定したベストセレクションです。どれも比較的短く、あっと驚くような展開に満ちて居ます。一粒一粒はすぐに読めてしまうのですが、どれも存在感があり、気が付くと時間を忘れて読み耽ってしまうことでしょう。
星新一作品の特徴は“SF(ScienceFiction)=科学+フィクション”という要素、そしてなにより性悪的な“人間の悪意”です。これらによって氏の作品は寓話めいた説得力を持っていますが、『ご依頼の件』は、この“人間の悪意”がひときわ色濃く出た作品集です。極悪ではないけれど、ほんの少しの悪い思い付き、怠慢、不義理…これらの招く、奇想天外な結末をどうぞ。
SFというジャンルはどこか“大人の童話”のようですが、それを支えている要素は「未来(=今ではないいつか)」に「宇宙や異国(=ここではないどこか)」で起こる出来事へと、読み手が自分の経験を抽象的に重ねることが出来て、そしてどこか共感できるからでもあります。エヌ氏は科学博士で、様々なものを発明したり購入したり冒険したりしますが、これはもしかしたら自分の夢かもしれない。そんなどこか身近な“ゾクッ”を感じることの出来る1冊です。
こちらは少し異色の、「悪魔」を登場キャラクターにもつストーリーをあつめた作品集です。星新一作品で悪魔はしばしば、人間のようによく話します。かれらは人間の心の内に棲んでいたり、天国からやってきたり…様々な場面に登場する「悪魔」が、おもしろおかしく、そして魅力的に、物語を彩って最後には読む者をはっとさせてくれるのです。
星新一といえばショート・ショートの第一人者ですが、実は長編、エッセイ、自伝など他にも多岐に渡る魅力的な作品があります。『ブランコのむこうで』は長編ファンタジー。特徴は、ショート・ショート作品では比較的あっさりと描かれる会話達が、生き生きと物語を彩ってゆくところです。まるで夢を見ているかのような不思議な世界に、じっくりと浸ってみてください。
こちらも長編作品、それも子供向けのジュブナイルな作品です。ファンタジーの要素に加えて、ほんのすこしの切なさが残ります。ショート・ショートでは、ディープでグロテスクな展開のあるものも多いですが、やはり星新一特有の展開の妙やユーモアは、子供時代にこそ知ってほしいものです。大人のわたし達でも十分に楽しめる、少し優しいファンタジー小説です。
じつはショート・ショートに次いで多く出版されているエッセイ集のうち、『きまぐれ博物誌』はまさに星新一の生活に根差した、そのユーモアの日常の部分を窺い知ることのできる作品集です。たばこにまつわる逸話、娘の話…巨匠ながらこんなに可愛らしい部分があったのかと唸らせられる、ほっとするようで細かな観察眼に驚く1冊です。
星新一の異色作のうち、こちらは時代小説です。ショート・ショートと同じような文体で描かれる閉ざされた空間。特殊なストーリーが、まるであらすじを述べるかのように進められてゆく様は、生き生きとした大河ドラマのような物語というよりも、どちらかというと歴史書に近い印象を生じるかもしれません。星新一自身の自伝的要素もあるとされる作品という点を踏まえて読むと、少しの切なさが一層身に染みることでしょう。
父、星一をモデルにした伝記のような長編です。星新一の長編のうち、もっともヘビーな作品といっても過言ではありません。読み始めた途端、違う作家を手に取ってしまったかと何度も表紙を確認してしまうほどですが、星新一の父に対する温かな目線が終始悲劇的な展開を和らげてくれます。「人民は弱し、官吏は強し」はまさに現代においても社会情勢を象徴する捉え方となっています。
ショート・ショートでもなく、長編でもエッセイでも伝記でもなく、多筆星新一による翻訳文学です。日本の古典文学におけるSF作品、『竹取物語』を、独自の文体を用いて斬新にアレンジしています。原典から、男達を惑わせるあからさまな色香を削ぎ、純真さと冷酷さとを全面に押し出した魅力的なかぐや姫。星新一特有の一見淡白で率直なモノローグなど、竹取物語のどこか奇妙で浮世離れした騒動を通して“不思議”要素を感じるのにもぴったりの1冊です。
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