刺激的な女はお嫌い?読み始めたら止まらない、女性主体の恋愛小説5選

刺激的な女はお嫌い?読み始めたら止まらない、女性主体の恋愛小説5選

「肉食系女子」といった言葉が流行り廃りを経て久しいですが、恋愛小説に於いて女性はヒロインとして理想化されることも珍しくありませんでした。一方で、生き生きとストーリーを背に男を手玉に取る、翻弄する、しいては命をも奪ってしまう…そんな劇薬のような女性たちに思わず心奪われること間違いなしの、女性主体のとっておきの恋愛小説を5冊、ご紹介します。

 

1. L・ザッヘル=マゾッホ『毛皮を着たヴィーナス』

1.L・ザッヘル=マゾッホ『毛皮を着たヴィーナス』

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“マゾヒズム”の語源でもあるマゾッホの描く自伝的小説ですが、そもそもマゾヒズムやサディズムに興味がなくとも、人を愛するということの身勝手さに覚えのある人ならば、一度は読んでおいて損のない作品です。物語は男の一人称で紡がれますが、そして主人公の男性にとってこれはまぎれもなく悲劇、かつ悲恋の物語なのですが、描かれる対象としての女性の描写が実に素晴らしく生々しいのです。主人公を最初敬愛し、可愛く思い、次第にその性を知って軽蔑し、酷い扱いをし始め、それによってのみ二人は愛し合うことの形態をとり、やがて彼女は男をこっぴどく棄て去ってしまいます。この結末は重要ではありません。主人公を魂から調教してしまう女神、ワンダの残酷さと美しさに唯々目が離せなくなる作品です。

 

2.  M・ド・サド『悪徳の栄え』

2. M・ド・サド『悪徳の栄え』

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マゾッホの作品がマゾヒズムの開花であるとするならば、こちらはサディズムの祖とされるマルキ・ド・サド伯爵の紡ぐ“悪徳”恋愛小説。サドの小説はどれも作者自身の“サド哲学”ともいうことのできるものを饒舌に含みますが、こちらの物語でもそれは大いに発揮されます。奔放かつ残忍な女性達のモノローグはまさしくサドの演説なのですが、それがストーリーには必須であり、簡潔でまぎれもなく悪で、そして魅力的なのです。

因みに、マゾッホ、サドいずれの作品もポルノグラフィであると言われることもたびたびありますが、それよりもずっと深淵的でストーリー自体の魅力が官能を引起す構成となっており、安心してお読みになれるかと思います。

 

3. 谷崎潤一郎『痴人の愛』

3.谷崎潤一郎『痴人の愛』

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女性崇拝の美学を打ち立てた谷崎潤一郎。西洋の官能とは或る意味で対比的な、受身で献身的な男性を描いた『春琴抄』は、マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』と並んで自己犠牲の文学としても有名です。対して『痴人の愛』は、一見対等どころか父性的な主人公と少女ナオミとの出会いから端を発するのですが、物語はヒロインナオミの奔放さと一見無秩序ぶりで疾風の如く進んでゆきます。ナオミはどうしようもなく厄介な女性として時に罵倒を交えて描かれますが、まさに二人の愛憎劇によってナオミの存在は読み手の前に「この女こそ“正解”なのだ」というイメージを喚起するかのように立ち現れてくるのです。彼女に出会いたいとは思えない…出会ったら人生滅茶苦茶になってしまうだろうから。そんな諦めと共に結末まで頁を繰る手が止められない、まるで1冊というよりも1人の女そのものの、生々しい作品です。

 

4. 山田詠美『賢者の愛』

4山田詠美『賢者の愛』

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山田詠美による女性像はどれもセンセーショナルですが、この『賢者の愛』は先述の谷崎純一郎の『痴人の愛』へのオマージュであると言われています。賛否両論ある作品ですが、シンプルにストーリーにのめりこみどんどん読めてしまうポップさも有ります。こちらでは、谷崎の描いた「ナオミ」像が性別を変えて、更に男女のどろどろした愛憎、それも背徳的でより毒々しい新たな息吹を以て彩られます。ポイントは、各シーンの鮮やかさ。随所に見られる山田詠美の特徴としての、身体の感覚を喚起するような詩的な描写は、読んでいて思わず想像を掻き立てられることでしょう。直接的な表現でなくともどこまでもグロテスクで残酷、そして時に核心を突く恋愛の極意を、ヒロイン真由子を通して知ることが出来るのです。

 

5. 村山由佳 『花酔ひ』

5村山由佳 『花酔ひ』

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『ダブル・ファンタジー』など、状況の特殊さや大胆な展開で美しくも衝撃的な男女関係を描く村山由佳の著作のうち、『花酔ひ』は、夫婦の背徳や秘密に焦点を当てた作品です。“誰しも人に言えない秘密がある”、そしてやはり色気というものはそういった秘密と、ある類の人生経験やトラウマによって、ときに一層魅力的に醸されるものであるということを納得させられてしまう疾走感があります。登場人物4人のうち、最も悪魔的で厄介な女性「千桜」の、モラルや貞節を破ることを厭わない大胆さには胸躍らされると同時に、相手「誠司」の身になれば恐怖すら湧くことでしょう。しかしながら、恐れながら読みすすめた時、最後には少しの後悔とともに、その奔放で高飛車な彼女に惹かれている筈です。

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