好きな人がいるあなたも、今はいないあなたも、読み終わった時にはふしぎと胸が春めいて、「恋がしたい」。そう思えるような、素敵な恋愛小説を5冊、ご紹介します。
まずは純文学から。こんな恋愛、してみたいけど、したら壊れてしまいそう…そんなことを感じてしまう1冊です。『ぼくは勉強ができない』『蝶々の纏足』などの児童文学、恋愛文学の巨頭、山田詠美。彼女の処女作『ベッドタイムアイズ』は、主人公キムとパートナーである黒人青年のスプーンとの、ひとときの交流を淡々と描く作品です。ストーリーはシンプルで、主人公2人の少し特殊な社会的事情以外で、複雑にこみいった出来事があるわけではありません。登場する場面の中には、時に扇情的で暴力的なものもあるのですが、なにぶん文体が美しく、ひたむきな二人の関係に、まるで映画を観ているかのように惹き込まれること間違いないでしょう。
肉感的なエロティシズムとは少しちがう、どこか懐かしさをおびた耽美な文章で人気の川上弘美。『ニシノユキヒコの恋と冒険』は、文字通り、ニシノユキヒコという一人の男の数奇な人生の往来を断片的に描いた恋愛小説です。繋がっているようで、各々別の物語をより合わせた間違いなく「短編」なのですが、どの章もニシノユキヒコを描写するのは、各々異なった女たち。呆れたり、救われたり、可愛く思ったり、あきらめたりしながら彼女たちは彼に惹かれてゆきます。そしてやがて皆最後には去ってしまう。物語は唐突に終わります。憧れを抱く恋愛というよりも、いつか小説の中の彼女たちのように出会ってしまうかもしれない、そしていつか同じく小説の中の彼女たちのように去るとしても、自分も彼に惹かれる気がする。そんな風にして、気付くとニシノユキヒコに先走りの恋をしてしまう1冊です。因みに、背表紙の紹介がこの小説を表すには“まさにそう”なので、ぜひそこから読んで頂きたいところです!
映画『愛を読む人』の原作、『朗読者』は、重厚ながら鮮烈な作品です。戦後ドイツという特殊な社会情勢を背景に、実質数十年の時を経て育まれる、年の離れた男女の恋を描いた物語。恋愛小説でもありながら、歴史の生む悲劇を色濃く反映させているという点では、良質な社会派小説とも言える本作です。そして、そうでありながらやはりどうあっても、主人公の少年とその想い人ハンナとの二人の関係があるからこそのめりこめてしまう展開が絶妙です。ストーリーも見事で、読み進めるうえで、「なぜ」「どうして」と疑問が浮かんで頁を繰る手が止まらなくなることでしょう。そして読後あらためて、自分の時代、自分の身体を通して、好きな人と向き合ってみたくなる。そんな不思議にパワーをもらえる1冊です。
『ヘヴン』で鮮烈な印象を残す川上未映子の長編恋愛小説『すべて真夜中の恋人たち』は、切なくも懐かしい大作です。純文学として最初にご紹介した『ベッドタイムアイズ』の純粋さは、二人のひたむきな恋路によるものでした。対してこちらは胸の焦がれるような、如何ともし難い心の動きが愛おしくなる作品です。主人公冬子の不器用さは、きっと誰もが感じたことのあるものではないでしょうか。美しい言葉の魔法に、最後の展開まで目が離せず、祈るように読んでしまうことでしょう。まぎれもなく物語、フィクションでありながらどこか、これは自分ではないのかと思わされる。いつかの自分の感情を思い出し、人を恋しく思うとはどういうことなのか、原点に還ることのできる1冊です。
最後は辻仁成『目下の恋人』をご紹介します。これは『ニシノユキヒコの恋と冒険』とは違う意味で、読んだあときっと、愛おしくて抱きしめたくなるような、珠玉の短編集です。表題作「目下の恋人」は、一見少しモラトリアムに見える若い男女の物語。主人公のネネちゃんは彼氏であるヒムロからいつも「目下の恋人、ネネちゃん」と他人に紹介されます。目下の、つまり今のところの、という意味合いの表現に、なんとなく不平等さや刹那を感じて静かに傷ついている彼女ですが、実はヒムロがその言葉をわざわざ選んで使うのには、ちゃんと理由があるのです…。「目下の恋人」という言語表現は印象的で、長編小説にするには少し重々しくなってしまうところですが、ちょうどよい文量でほっとさせてくれるストーリー。色んな二人の青春のページを垣間見て居るような、爽快で疾走感ある1冊です。読み終わったころには、きっと誰かに電話を掛けたくなっているのではないでしょうか。
如何だったでしょうか。「書を捨てよ、町へ出よう」。されど、捨てる前に読んでしまおう。そしたらきっと、もっともっと、町へ出るのが楽しくなることでしょう。皆様も是非、お手に取ってみて下さいね。
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