短いようで長く、長いようで短い通勤時間。長編小説を読むには区切りが難しいものです。ショートショートのような短編小説も、面白ければ良いのですが、車内で爆笑してしまっては大変。あるいは、ハードボイルドな内容のものは、それはそれで、疲れてしまいますよね。そんな時にお勧めしたいのが、作者の筆致息づく短い随筆、ショートエッセイ。くすっと笑えて、ほんの少しナイーブ。短文にきらりと光るみずみずしさのある、ショートエッセイ集のおすすめをご紹介します。
“オーケン”の愛称で親しまれる、バンド「筋肉少女帯」のフロントマン、大槻ケンヂ。ご存知の方も多いかもしれませんが、彼は音楽のみならず小説、随筆分野でも大いに才能を発揮しています。歌詞を聞いて、そしてこの『神菜、頭をよくしてあげよう』のエッセイを読み始めてすぐに突き当たる、「あっ、この人たぶん、モテない」感…(ファンの方、失礼をどうぞお許しください)。幼少期の思い出に始まり、バンド時代の失敗やトラウマ、友人関係までをつらつらと綴ります。その全てに共通するのが、彼の思春期の“女の子”に対する感情。深夜のファミレスで友人に向けて語るような内容ですが、語り口はお昼のラジオのように軽やかで、どこか懐かしい少年めいた純粋さに溢れて居ます。少し明るい気持ちになりたいときに、おすすめの1冊です。
「筋肉少女帯」のフロントマン大槻ケンヂに対する、いしわたり淳治は、バンド「SUPERCAR」のギタリスト。こちらのエッセイは少し詩的で、そして良い意味で「小説のような」描写で溢れています。但しまぎれもなくエッセイで、ふだんの生活やタイムリーな話題を題材に展開されるエッセイです。文章がドラマティックというわけではないのに、不思議とページをめくる手がとまらなくなる。そんな他に類を見ないエッセイを楽しみたいという方に是非、おすすめの1冊です。 因みに、先述の大槻ケンヂもいしわたり淳治も、音楽活動やバンドに関する深い話はなく、そちらをご存知ない方でも十分に楽しめる仕様のエッセイになっていますので、その点はご心配なくお手に取ってみてくださいね。
中島らもという名を聞くと、いくつかのスキャンダラスなニュースや出来事を思い出す人も多いのではないでしょうか。もはや彼をどの職業に位置づけるかは大きな問題ではありませんが、少なくとも、エッセイやショートコラムに於いては、彼の魅力が存分にいかんなく発揮されています。そのキャラクターを端的に表すならば、“呑気で飄々としたハートフルな皮肉屋”。このエッセイは、彼が自分の小心な性格を自虐して、普段怒れないことをこうして後々文章にしたためている、という、いわば“社会への文句”の総集なのですが、なにぶん読んでいて痛快なこと間違いありません。きっと読み終わるころには、悩める現代人は自然と「自分もこの人に心の内や小さな悩みを相談してみたい」と感じてしまうことでしょう。1エッセイあたりの長さもちょうどよく、仕事前に気持ちを軽くしたい人におすすめの1冊です。
小説『泥の河』・『螢川』・『道頓堀川』のいわゆる“川三部作”を初めとした、小説で有名な宮本輝の、若かりし頃のショートエッセイ集です。こちらは、少し時代を感じるものとなっています。そしてこのエッセイ集で更に重要なのは、故郷に対する郷愁、そして複雑な家庭環境で育った彼の、深く切ない思い出を生じさせる父母との記憶の数々です。他にご紹介したエッセイ集に比べて、一見少し暗いかのような印象を与えるものですが、読後には不思議な爽快感が残ります。「蜥蜴(とかげ)」という一節では、蜥蜴とのエピソードを通じて、彼の当時の心境や、それが今に至る影響までをも暗示しているかのようです。疲れた心を、温かな情で癒したいとき、ほんの少しのノスタルジーを得たいときにおすすめの1冊です。
日本文学における、文字通り最初の随筆『徒然草』。つれづれなるままに、すなわちおもうがままにのらりくらりと、吉田兼好(兼好法師)が綴る生活に根差した感性。原典はなんと1300年代の執筆と言われていますが、今においても、いざページをめくれば共感の嵐。「人間の先は老いて病むばかり、若いうちに人生の波風や変化を知るべきだ」「人生は目的の有る、無しによって、短い、長いと感じる」(要約済)など、腑に落ちるところの多い、間違いない名著を、現代の解説つきで読むことが出来ます。原典、通訳、語句、解説、と、ちゃっかり古典の勉強にも役立つので、受験生の人にもおすすめしたい1冊です。 ちなみにこの徒然草、現代ではSNSのTwitterを彷彿とさせるのではないでしょうか。とりとめのない、一見非生産的とも思える事柄を、筆者のユーモアでここまでおもしろく仕立て上げる手法には感嘆させられることでしょう。今までご紹介したエッセイ集のどれよりも1つあたりのエピソードが短くまとまっており、短編としても非常に読みやすいのが魅力です。 如何だったでしょうか。是非通勤のお供に、お手に取ってみて下さいね。
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